●はじめに
タイトルの通り、ユニクロとSHEINの訴訟について調べてみました。
結論から言うと、こうです。
(1)意匠権についてユニクロはおそらく登録していない
(2)争点となる条文
(2-1)不正競争防止法第二条第一項第一号(いわゆる周知表示混同惹起行為)
ユニクロバッグの周知性がポイント
(2ー2)第二条第一項第三号(いわゆる商品形態模倣行為)
バッグの形がありふれているかがポイント
本文はこの下から始まります。少しでも参考になれば幸いです。
●本文
2024年1月16日 ユニクロが、SHEINブランドを展開する会社を不正競争防止法に違反するとして模倣商品の販売停止と損害賠償を求め提訴したと発表しました。
(以下、ユニクロ公式プレスリリースから引用)
「株式会社ユニクロ(本社:山口市、代表取締役会長兼CEO:柳井 正、以下、当社)は、 SHEINブランドを展開するRoadget Business Pte. Ltd.、Fashion Choice Pte. Ltd.およびSHEIN JAPAN株式会社が当社商品であるラウンドミニショルダーバッグの形態を模倣した商品(以下、模倣商品)を販売する行為等につき、不正競争防止法違反を理由として、2023年12月28日付で、上記3社を相手として、東京地方裁判所に、模倣商品の販売の停止と、販売により当社が被った損害の賠償を求める訴訟等の申立てを行いました。」(引用終わり)
ユニクロ ラウンドミニショルダーバッグに関する訴訟等の申立てについて https://www.uniqlo.com/jp/ja/contents/corp/press-release/2024/01/24011615_news.html
私が好きな 経済番組 WBS(ワールドビジネスサテライト)でもこの話題について取り上げていました(番組の内容は以下のリンクの記事に書かれているものとほぼ同じです)。
<追跡>「ユニクロ」VS「SHEIN」裁判の行方 職人は型紙が同じ可能性を指摘【WBS】
news.yahoo.co.jp
番組内ではユニクロとSHEIN双方のショルダーバッグの類似点や、裁判での争点について取材しておりとても参考になりました
この内容を踏まえつつ、この問題について自分でもさらに調べてみました。
(1) 意匠権はどうなの?
今回の報道を知って最初に思ったのは、意匠権についてはどうなの?です。
ユニクロの発表によると提訴は不正競争防止法に関してのみで、意匠法については触れていません。
通常、自動車や家電製品等、商品のデザインを保護したい場合は意匠権を登録します。
特許庁に出願して審査を経て登録された意匠権はある程度強力な権利です。
下記は参考にさせていただいたサイトです。
弁理士による解説-ユニクロがバッグを模倣したとしてSHEINを提訴
https://www.kitap.jp/2024/01/18/uniqlo-filed-suit/
一方、ファッション商品はライフサイクルが短く新しい商品が次々と発売されるので、意匠権登録のための時間と費用などのコストをかけるのが難しいという事情があるようです。
本件のユニクロのショルダーバッグは意匠権が登録されていないと思われます。だから意匠権を主張できないのでしょう。
(2) 具体的な争点は?
不正競争防止法に関する提訴ということだけど、具体的にどの条文が関係しているのでしょうか?
不正競争防止法は以前職場で研修を受けたことがあるけれど記憶がおぼろげなので、復習もかねて調べてみました。
・差し止め請求(第三条)、損害賠償(第四条)
不正競争防止法の第三条には、不正競争によって営業上の利益を侵害される(おそれがある)者は、相手に差し止め請求できることが規定されています。
第四条では損害賠償について同様の規定があります。
(差止請求権)
第三条 不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、その営業上の利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
2 不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物(侵害の行為により生じた物を含む。第五条第一項において同じ。)の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の停止又は予防に必要な行為を請求することができる。
(損害賠償)
第四条 故意又は過失により不正競争を行って他人の営業上の利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。(以下略)
では、不正競争って何?
ということについては第二条で定義されており、本件に関係があるのは、第二条第一項第一号(いわゆる周知表示混同惹起行為)と、第二条第一項第三号(いわゆる商品形態模倣行為)だと思います。
(2-1)
・第二条第一項第一号(いわゆる周知表示混同惹起行為)
第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
一 他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為
上に書いてある「商品等表示」というのは、商品の形状も含まれ得ます。
つまりユニクロのショルダーバッグの形状もこの条文でいう「商品等表示」に該当し得るのですが、それにはこのショルダーバッグの形状が、需要者すなわち一般消費者にユニクロの商品等表示として広く認識されているという要件(いわゆる周知性要件)を満たす必要があります。
下記は参考にさせていただいたサイトです。
周知表示混同惹起行為(不競法2条1項1号) - 弁護士法人クラフトマン IT・技術・特許・商標に強い法律事務所(東京・横浜)
WBSの番組内で海老澤美幸弁護士が「ユニクロのバッグがどれだけ有名か、ユニクロの商品として認識されているか。」がポイントの一つとおっしゃっていたのは上記についてでしょう。
(2-2)
・第二条第一項第三号(いわゆる商品形態模倣行為)
第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
三 他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する行為
「ユニクロのバッグを購入して解体して、その形をとって、型紙に落として作っている可能性もあると思うほど酷似している」とバッグ職人にいわせるほど、SHEINのバッグはユニクロのものに類似していますから、模倣行為の立証に関してはユニクロが有利だと思います。
しかし「ありふれた形態」については、この条文における「商品の形態」に該当しないと判断した裁判例があります(東京地裁平成24年12月25日判決)。
模倣していたとしても、それがありふれた形態と認められればSHEINはセーフとなる可能性があるということです。
下記は参考にさせていただいたサイトです。
商品形態模倣行為とは?不正競争防止法が定める要件や事例を解説 - 咲くやこの花法律事務所
海老澤美幸弁護士が「この形がありふれているか。市場に似た商品がたくさんあるか、というのも一つのポイント」とおっしゃっていたのは上記についてでしょう。
「非常にシンプルなデザインなので、似たバッグがたくさんあることをSHEIN側が主張して、証拠も出すことができれば、ありふれたデザインと判断される可能性もないわけではない」(海老澤弁護士)と、ユニクロの勝訴が容易ではないともおっしゃっており、これには同意です。
●締めの一言
ユニクロが勝訴するか、はたまた和解するかはわかりませんが今後も裁判の行方に注目していきたいです。
●まとめ
(1)意匠権についてユニクロはおそらく登録していない
(2)争点となる条文
(2-1)不正競争防止法第二条第一項第一号(いわゆる周知表示混同惹起行為)
ユニクロバッグの周知性がポイント
(2ー2)第二条第一項第三号(いわゆる商品形態模倣行為)
バッグの形がありふれているかがポイント